■簡単な設定■
○1話から6年後。
○虎徹と楓とバーナビーはシルバーステージの外れにある一軒家(庭付き)で一緒に暮らしています。
バーナビーは現役ヒーロー。楓は高校生。
○ユーリとエドワードは一緒に暮らしています。基本的に二人とも楓と仲良し。
○鏑木さん一家とペトロフさん一家がほのほもしてます。
○基本進行は兎楓と月砂ですが、見る人によってどうとでも取れそうなとこもあります。
○全体的にゆるーい進行。
○なんだったらパラレルと思い込んでください。
○今からこの5人が鏑木さんちのお庭でBBQパーティーをするよ!という話です。
元ネタは友人とツイッターで盛り上がった会話です。
○月砂に関しては妄想免疫が無い人に優しくない仕様。
○大丈夫ならどうぞ!
*****
■BBQの日(ペトロフさんちと一緒)■
太陽が空高く燦々と輝く絶好のバーベキュー日和。
白い雲がのんびりと遊泳を楽しむ正午のシルバーステージ。外れに佇む慎ましやかな一戸建て。その小さな庭に数人の男性が集まっていた。
一人は七分丈のTシャツを二の腕まで捲くった40代の日系。
気合十分にねじり上げた手ぬぐいを首に巻き、両手にはめた軍手でコンロに炭をくべる。
一人は見目も眩しい金髪の美丈夫。その髪をヘアゴムで軽くまとめた姿は三十路に掛かっても絵になった。ガラガラ炭をくべる軍手の男に眉を寄せ、その額に静止のでこぴんを食らわせる。
「ちょっと虎徹さん! 入れすぎないで下さいよ。せっかくの火種が消えてしまう」
「わーかってるって! いってーな。あ、ペトロフさん仰いでくださいよー」
呼び掛けられたのは、濃紺のカッターシャツを第二ボタンまで寛げた30代の男だ。緩く結わえられた銀髪が太陽光を反射する。
「ああ、すみません。火元で良いんですね」
言いながらコンロの中にある火種に風を送る。炎の勢いが増すと、真っ黒な炭の一部がじわっと橙を灯しだす。
だがそれと同時に灰色の煙も大量発生し、丁度風下にいた虎徹を直撃した。
「ぐえっ! ぐ、げほごほっ!」
煙に巻かれて咳き込む虎徹を見て、金髪の美丈夫はペトロフに向かって親指を立てた。
「ペトロフさん、ナイスです」
「はぁ、ありがとうございます。バーナビーさん」
何故褒められたのか良くわからないペトロフは、それでいいのなら良いかとそのまま扇ぎつつ炭の様子を見た。虎徹の事は放っておくようだ。風下から逃げた虎徹が「え!?スルー?」と叫び、隣のバーナビーが小さく吹き出す。
赤く橙に燃え始める炭を見てやりながら、ペトロフは思う。
虎徹はともかく、バーナビーは本当に良く笑うようになったものだと。
「人は変わるものですね」
「え? 今何か仰いましたか?」
「いいえ」
尋ねてきたバーナビーに微笑を返して、ペトロフは炭に視線を戻した。その際流れ落ちてきた銀髪を耳にかける。
その時、新しい声が響いた。響きも豊かな少女の声だ。
「お父さん! バーナビー! ユーリさん苛めてないよね!?」
「っぶふ!」
その庭に新たに現れたのは、野菜盛り皿を持った10代の少女と肉盛り皿を持った20代の青年だ。青年は顔を背けて肩を震わせている。
慣れた足取りで縁側からサンダルを突っかけて降りて来た少女は、簡易式テーブルの上に持っていた皿を置くと父親を睨み付けて言葉を再開した。
「ユーリさんはお父さんみたいにガサツなおじさんじゃないんだから! 私のお友達をあんまり吃驚させないでね?」
「ぱ、パパがそんな事する筈無いだろぉ~? ですよね! ペトロフさん!」
同意を求められたユーリ・ペトロフは顔を上げて少女を探した。すぐに見つかった彼女は、艶やかな髪を左右でお団子に纏めた愛らしい装いで此方を伺っている。それに小さく微笑を返す。
「大丈夫ですよ、楓。むしろ私がご迷惑をお掛けしてしまったようです」
「ならいいの。お父さんは丈夫だから平気だよ♪」
明るい娘の言葉に、父親が情けない声を上げるが相手にされない。
パチリと炭が弾けて、ユーリが視線をコンロに戻した。先ほど追いやった髪の一部が頬に掛かる。
「ユーリさん」
すぐ傍で声がして、反応を返す前に楓の顔が目の前に現れる。
「その髪、纏めた方が良いですよ。私、やったげます!」
ぱちりと大きな瞳が瞬きをして微笑んだ。
するりとユーリの背後に回った楓は、緩く結わえられたその髪を解いて、シャツワンピースのポケットからゴムとピンを取り出す。
「これ、お預かりしますね」
そう言ったバーナビーが、ユーリの手から団扇を預かった。それから楓に向かって「楓、少しコンロから離れて下さい」と注意する。
それに「はぁい」と返事をした楓は、ユーリに向かって「向こう行こ?」と言って少し離れたテーブルの傍にある折りたたみ椅子を指差した。ユーリはそれに行動で返事をする。楓が小走りに駆けて、先に椅子の傍に到着した。
「あ、エド。お肉はあっちの小テーブルに置いちゃって。お父さんてばお肉一番に焼きたがるんだ~」
「りょーかい」
先ほど一緒に皿を持って来た青年を発見した楓が指示を出した。エドワードは楓に軽い返事して、歩いてきたユーリに向かってニヤニヤと笑ってみせる。
「苛められてたんですか、ユーリちゃん」
「苛められたいんですか、ケディ君」
表情すら変えずに返したユーリに、エドワードは口笛を吹くと「ペトロフくんこっわーい」とふざけた口調で言いながら、皿を片手にその場を脱した。
「二人とも仲良しさんだよねー。あ、ユーリさんここ座って!」
人によれば険悪とも取れるその空気を『仲良し』と称した楓は、簡易椅子を叩いて示す。
長い髪を下ろしたままバーベキューなど愚の骨頂であるので、ユーリは素直に従った。
「オキャクサマ。どんな髪型をご希望ですか?」
「……纏まればそれでいいですよ」
「もー! 編みこみにしちゃいますよ!」
そんな他愛の無い会話をしながらも、楓はささっとユーリの銀髪を後ろ頭で纏め上げる。
「出来た! ピンも使ってるから、取りにくかったらエドに取ってもらって下さい」
「有難う御座います、楓」
そう言って笑いあう二人の下に、コンロ組の騒がしい声が聞こえて来た。
「よーし、肉焼くぞ、肉!」
「待て待て待て。まだ網置いたばっかで暖まってねえだろ!」
高らかに宣言したのは虎徹。
トングで肉を掴み、今にも網に置かんとしている彼を止めに入っているのはエドワードだ。もう一つのトングを手に、虎徹のトングが肉を離す前に阻止した。
そんな二人をため息ついて見ているのはバーナビー。
「すみません。うちの浮かれおじさんが……」
「謝るなら先に止めろっての!」
すっかりツッコミが板についたエドワードが、虎徹を諌めてからユーリ達を見る。
「終わったなら野菜ちょっと別皿に盛ってこっち来いよ。暖まったら焼くぞー」
「わかったー! ユーリさん、お野菜持って行きましょう」
「そうですね」
そうして、虎徹、楓、バーナビー、ユーリ、エドワードの奇妙な5人組のバーベキューパーティーは、賑やかに開催された。
*****
宴も酣となった頃。
網の上では炭と化した肉が燻っている状態で、トングを持った虎徹が突然叫んだ。
「若者達、もっと食えよ肉! 全然食ってねーだろお前ら! 余ってるぞ!」
その声に、既にテーブル囲って歓談モードだった四人は一斉に虎徹を見た。それから約2kgは余っている生肉を見る。それぞれの表情に微妙な違いはあれど、そのどれもが否定的なものだ。
最初に発言したのは、虎徹の娘である楓。
「これ以上は太るからヤダ」
ぷいっと顔を背ける身も蓋も無い娘の発言に、虎徹は返す言葉も無い。楓は太ってねぇだろと思うものの、そう返すと怒られる事は経験上知っていた。
ところがその言葉を発した人物がいた。バーナビーだ。
「楓は太ってなんかいませんよ?」
「女の子はキープするのが一番大変なのよ、バーナビー!」
するりと頬を撫ぜたバーナビーの手に擽ったそうに笑いながら、仕返しに人差し指で彼の鼻をエイッと押す楓。
そんな仲睦まじい二人に、なんであいつはいいんだよ! とイラっとした虎徹は、バーナビーに向かって人差し指を向ける。
「お前はどうなんだよ!」
「明日の撮影に響きますので。油分の取り過ぎで吹き出物を作る訳にはいきません」
現役人気ヒーローの、これまた完璧な理由で虎徹は返す言葉が無い。
次は誰だと獲物を探す虎徹と視線が合ったエドワードは、言われるまでも無く先攻した。ひらひらと片手を振りながら言う。
「あ、俺はムショ暮らしであんま肉食わなくていい体になっちまって。そもそも量もそんないらねーんだ。あんま食うと気分悪くなる」
「お……おお。そうか」
明るくからっと告げられた言葉は、気まずい上に以下同文で、虎徹は意味も無くユーリの横顔を睨み付けた。
するとユーリは長いため息をついて、虎徹と視線を合わせる。
「……そもそもですよ。5人で肉5kgは買い過ぎです」
ゆっくりと告げられた言葉は正論だ。ここに居るメンバーは食べ盛りの大学生サークル部員ではないのだ。1人1㎏の配当はどう考えてもおかしかった。
肉の買出しを担当したのは虎徹。
要は、バーベキューにテンション上がって買いすぎてしまったのだ。
「っかー! 何なんだよ!これだから最近の若い奴はよ!」
それはさて置く事にしたらしい虎徹は、尻ポケットからスマートフォンを取り出して誰かに電話を掛け始める。
その様子を見ながら、バーナビーは呟いた。
「若者って……僕もいい年なんですけどね」
やれやれと肩をすくめる30代の背中を、10代の娘が励ますように叩く。
「お父さんにとって自分より年下はみんな若者だよ」
「へぇ。そういうもんなのな」
あまり興味がなさそうな相槌を打った20代に、同じく傍観モードの30代が言う。
「そう珍しくもありませんよ」
この四人の会話が丸聞こえなのだから、虎徹の何かは我慢の限界だ。
電話の呼び出し音が途絶えたのを理解した瞬間に、虎徹は喋り始めた。
「ッアントニオ! お前今すぐ家に来い……って……留守電だぁ?」
虎徹の声を遮るように、メッセージ録音案内を行う単調な音声が響く。メッセージが終了すると、ピーっと電子音が鳴った。
虎徹はただ静かに電話を切る。
「ついに親友にまで着拒されたんだ、お父さん……」
「虎徹さん……」
容赦など無い愛娘と元相棒の遠い声に、虎徹はちょっと泣きたくなった。何でそんな悲しいこと言ってくれるんだうちの家族。
「いや、まぁ……あんま気にすんなって! ほら、デートでたまたま出れなかっただけだろ?」
「……エドワード。一言多い」
青年のフォローしたいのかしたくないのかわからない言葉と、それにツッコミだけを入れる男性に、虎徹は本当に泣きそうになった。
ふるふると小刻みに震える手でスマートフォンを握り締めると、画面に指を滑らせる。
「く、くっそ! 奥の手だ……おい、キッド! 肉食うか?」
「ワオ。それは奥の手だ」
虎徹の口から飛び出した名前に、バーナビーが瞳を見開き驚いた。「というか、虎徹さんドラゴンキッドの連絡先知ってたんですね」というのは心の声だが、思いっきり漏れてしまっている。
しかし、奥の手を使ったはずの虎徹は顔色が優れない。
「……あ……いえ、すみません。3㎏は流石に残って……無いです、ね」
「さっすがキッドさん☆」
冷や汗を垂らす虎徹とは打って変わって、楓は楽しげに手を打った。3kgという言葉を聞いたユーリはそれだけで胸焼けを起している。
そんな混沌とした風景を眺めながら、エドワードは一人思案に耽った。
イワン、お前は呼ばれないんだな。と。
ぶっちゃけ、なんだか関わりたくない雰囲気になってきた為の、ちょっとした現実逃避でもある。
「はい。はい……すみません。出直してきます……。……っだ! スカーイハーーイ☆」
妙にかしこまった良い声で電話を切った虎徹は、すぐさま他の人物に電話を掛けた。相手が通話口に出るなり、自棄になって高いテンションで叫ぶ虎徹に、スマートフォンからは『ハイハハーイ!』と嬉しそうな返事が漏れる。
「わぁ。どんどん見境なくなってくね」
「彼は今日、ファン感謝イベントの筈ですよ」
「表情を見れば解りますね……」
生暖かく見守る視線の先では、虎徹がしおれていく花のように凹んでいるのが分かる。
そんな様子を見ながら、まぁ呼ばれないのがあいつの為だな、こりゃ。と思案を打ち切ったエドワードは、遠い目をしている楓に声を掛けた。
「楓! これ小分けにして冷凍しようぜ」
「うん。そだね!」
ぱっと笑顔になった楓は、ラップ取ってくるね! と言って家の中に消える。
バーナビーとユーリは顔を見合わせると、
「じゃあ、僕らは後片付けしましょうか」
「そうですね。炭の始末は時間も掛かりますし」
と頷きあって各作業に入っていく。
その頃の虎徹はというと、スペシャルゲストとして参加していたブルーローズから、『どうしてそういう事先に言っておかないのよ! バカぁ!』と2日前までフリーだったのに参加出来ないという苛立ち紛れに罵られ、『バーベキュー。楽しそうだ! 私も参加したかった……残念だ、そして残念だ』と、参加出来なかった事に凹むスカイハイに罪悪感をぎゅんぎゅん刺激されていた。
概ね自業自得である。
*****
イベントスタッフにスカイハイが呼ばれ、思うより長くなった電話を切り、虎徹はため息を吐いた。
「こりゃ、今度は皆に声かけてBBQパーティーするっきゃねーか。……じゃなくて、取りあえず今だよ今! ファイヤーエンブレムは絶対こねぇだろうしな……どうする、鏑木こて」
「みんなぁ! スイカ切ったよー!」
決め台詞まで出して真剣に考え込む虎徹の耳に、唐突に愛娘の元気な声が聞こえた。
え? スイカ?
不思議に思って振り返ると、あれだけあった肉は全て片付けられ、コンロの始末もされている。簡易テーブルの上には飲み物位しか乗っておらず、家から出てきた娘と青年の手にする皿には、くし切りにされた瑞々しい西瓜の姿。
「鏑木サン。肉は冷凍保存に回しちまったぜ」
手にした西瓜をテーブルに置きながら、エドワードが笑った。
バーナビーは楓の手からさり気なく皿を受け取りながら微笑みかける。
「ありがとうございます、楓」
テーブルに二つの皿が置かれ、エドワードが指の間に挟んでいた塩の小瓶を置いてユーリの隣に座った。
「……スプーンは無いんですか?」
バーナビーは不思議そうに小首をかしげ、その様子を見た楓が嬉しそうに笑った。
「バーナビーさん、こういうのはかぶりつきだよ!」
「ええ? 汚れてしまいますよ?」
「濡れタオル完備です☆」
そう言った楓は、腕に掛けていたビニール袋から絞った濡れタオルを取り出した。それには敵わないといった風に、バーナビーが息を吐く。
「お姫様のご随意に」
それから観念したように楓の頭を撫で、その手でぬれタオルを受け取る。
「あれ? 俺、おいてけぼり……?」
我に返った虎徹の寂しい声が庭に響くが、あまり気にされた様子はなく会話は進む。
「所で、それは何ですか?」
「ん? ソルトだよ。ソーリ!」
ユーリの質問に答えながら小瓶を手にしたエドワードに、彼は不服そうな視線を向ける。
「それ位解ります。何故持って来たのかを尋ねているんですが」
エドワードが西瓜と小瓶を手にしたままユーリの目を見た。こいつすぐ眉間に皺寄るよなぁ、と思いながら「何って、かける」と言って西瓜に一振り。
ユーリの表情が信じられないものを見たという驚きのものに変わった。
基本的に彼の表情は大きく動かないので、傍目にはそう変化は無い。だが、それなりに付き合いの長いエドワードは、ユーリ・ペトロフという人間が意外に豊かな感情を持っている事を知っていた。どうやら西瓜が甘いものとは知っているらしい。
そのまま大きく一口齧ってやると、ユーリの口角がぐっと下がった。
「ひがひといけるほ?」
「食べ終わってから喋るように……」
短いため息をつかれて、エドワードは暫く黙ってもぐもぐと口を動かした。30手前の男にする表現ではないが、頬袋を膨らますリスのようだ。
ユーリが視線を逸らして西瓜に左手を伸ばすと、その手をエドワードの左手が遮った。
視線を戻すと、口の中のものを嚥下した彼がにっと笑う。
「一口どうぞ~♪」
そう言って口元に差し出された西瓜に、ユーリは一瞬驚いて顔を引いた。だがすぐに目を細める。日差しが眩しくて、というより若干冷ややかな目線だ。
あ、ちょっと遊びすぎたか。と、若干反省したエドワードがユーリから手を引く。
しかし、西瓜を持ったエドワードの右手を、開放されたユーリの右手が掴んだ事で、それは半分成らなかった。
「楓」
「なぁに?」
西瓜の種に四苦八苦するバーナビーの頬を、濡れタオルで優しく拭っていた楓が小首を傾げた。愛らしい少女の様子に、ユーリは穏やかな笑みを浮かべて彼女の父親を指し示す。
「貴女のお父様が随分いじけていらっしゃいますよ。そろそろ構ってあげた方が良いのでは?」
穏やかな声を出すユーリの隣では、エドワードが微妙な笑顔のまま凍っていた。掴まれた右手首が非常に痛い。
何こいつマジで大人げねえなどこでそんなキレてんだよ! 彼の心情はこうである。
「もー。しょうがないなぁ、お父さんは。……おとぉーさんっ!」
そんな水面下のやり取りを少女が知るはずも無く、彼女は少し困ったような照れの混じったはにかみを見せて反転し、父親の元へ駆けて行った。
それを見送るまでもなくエドワードがユーリに噛み付く。
「痛ぇんだよ!」
「あぁ。では、いただきます」
「あ?」
事も無げに告げたユーリは、エドワードが持つ西瓜を一口、小さく齧った。血行の悪い唇から覗く白い歯が、紅く潤んだ果肉を噛み切って、ユーリの眉が不愉快そうに寄る。
「い……意外と美味いだろー」
その一連の動作に目を奪われたエドワードは、慌てて視線を逸らして明るい声を出す。訳も無く嫌な予感に冷汗が出るエドワードの顔にユーリの左手が伸び、その親指が睫毛をなぞった。
その時。
「ハァイ! Tiger&Barnaryの空気が読める方、バーナビーです!」
二人がまったく同じタイミングで声の元を見ると、バーナビーがにこにこしながらテーブルに頬杖をついていた。空いた方の手を上げてひらひらと振りながら、軽快な声で続ける。
「今日はマナー標語を一つ。"家でやろう。"」
完璧な笑顔の現役ヒーローに、もはや二人は言葉も無かった。