兎に友達を作ろう

 ”ナはタイをアラワす”というコトワザが、ジャパンにある。

 でもこの人の場合、”能力は体を表す”って変えるのがぴったりだと思う。

 パステルカラ―の青空を流れる薄雲を眺めていると、急に目の前に現れたその姿に、ボクはそんなことを思った。

「やぁ! イワンくん! 何か見えるかい? そして楽しいかい?」

 視線を左にそらすと、可愛らしい動物柄のピクニックシートに座ったバーナビーさんが、どこか諦めたような表情で、何とも言えない形のサンドイッチのようなものを小さく齧っていた。

 あたり一面に広がる草原に、ボクと彼とバーナビーさん以外の人影は無い。

 風は心地よく、日差しは暖かく、小鳥の囀りに心がやすらぐ。

「薄雲に透ける空が綺麗だな、と。――はい。楽しいですよ」

 言葉を返すと、太陽のような笑顔が降ってきた。

「確かにそうだね! バーナビーくん、雲が綺麗だよ! とても美しい!」

「そんなに全力で叫ばなくても聞こえますよ。スカ……」

 バーナビーさんの返答に、太陽のような笑顔に瞬時に雲がかかる。

 言い終わるまでもなく自分のミスに気付いたバーナビーさんは、苦すぎる物を食べたような顔で僕を見た。

 ええ。わかります。

 その方のその表情って、なんだか物凄く心が痛むんですよね。

「……そうじゃなくて……。ええと、あの! 今までの癖もありますし、急に呼び方を変えるのも難しい事だと思いますよ。バーナビーさんも、つい癖で呼んでしまったんですよ」

 一人思考に沈みそうになった自分を叱咤して、彼らの間に入った。

 たどたどしい弁にも関わらず、彼の表情はすぐに晴れる。

「そうだね! 確かにそうだ! バーナビーくん、イワンくん、私達は友だちだ!!」

 そう言って、ボクの肩とバーナビーさんの肩をぐいっと抱いた。

「はい。宜しくお願いしますね、キースさん」

「宜しく。…………キースさん」

 二人して抱きしめられつつも、挨拶を返す。

 吐き捨てるように彼の名前を呼んだバーナビーさんの頬は、その言葉とは裏腹にほんのり赤かった。

 それを見て、素直じゃない人だなぁと笑みが零れてしまったのは、秘密にしておこうと思う。

 

 

 時は半日以上遡る。

 この日、バーナビーは久しぶりのオフ日であるにも拘らず、何時もと同じ時間に起きてシャワーで汗を流した。

 着替えてキッチンに立ち、水を入れたケトルを火にかける。ビーンズをミルにかける所から、淹れたコーヒーをリビングの椅子で楽しむ所まで、彼は平時となんら変わりない朝を過ごしていた。

 変化があったのは、香り立つコーヒーが半分以下になり、バーナビーの頭の中で今日一日の予定が組み上がったその時だった。

 軽快な呼び出し音が一度鳴る。

 来客予定のない休日の呼び鈴に、彼が眉を顰めると、今度は2回続けて呼び出し音が鳴った。

 相手はよっぽどのせっかち者なのか、まるで子供のような鳴らし方である。

 バーナビーは小さくため息を吐いて、モニタのある場所に向かった。ボタンを押して暗い液晶に映像を表示させる。

「は――」

「おはよう! バーナビーくん、私だ!」

「いや、それじゃあ何かの詐欺みたいですから……」

 バーナビーの言葉を打ち消すように、スピーカーからは盛大な音声が響いた。液晶にはさわやかな笑顔の好青年が妙にアップで映っており、隅の方に少しくすんだ金髪の情けない顔が見切れている。

 どちらの人物も、バーナビーがよく知る人物だ。

「おはようございます、先輩方。まだ朝ですので、もう少し静かになさった方がいいですよ。」

 悪気の欠片もない笑顔に朝から疲れを覚えたバーナビーは、とりあえず上がってください、とだけ言って通信を切った。

 ――その数分後。

 バーナビーの部屋には、にこにこと笑顔を浮かべるキース・グットマンと、酷く申し訳なさそうな顔をしたイワン・カレリンの姿があった。朝からアポ無しで人の家を訪ねるという多少常識を疑う行為をしているが、彼らはこれでもヒーロー。バーナビーの仕事仲間であり、先輩でもあるので、そうそう無下には扱えない。

 そういう訳で、バーナビーは少しだけ社交的な笑みを浮かべて見せた。

「今日はどうかなさったんですか? それに、どうして僕の家を?」

「ああ。バーナビーくんに用があったんだが、家がわからなくてね。タイガーくんから聞いたんだ」

「成る程。あの人から」

 キースの言葉に、バーナビーは内心の苛立ちを綺麗な笑顔で全て覆い隠した。だが、感受性の高いイワンだけがそれを感知し、できる限り自然に視線を伏せた。

 文字通り不穏な空気が流れて消えていった為、キースは何も気付かない。大きな瞬きを二度して、バーナビーを頭のてっぺんからつま先まで見つめた。そして大きく頷く。

「さあ出発だ! バーナビーくんにイワンくん。ピクニックに出発しよう!」

「順番が違いますよ。スカイハイさん」

 大声量での宣言に、控えめだが的確な突っ込みが入る。

 この二人はお笑いコンビでデビューでもする気なんだろうか。それで僕の所にネタ見せに? しかしボケが大暴投の上にツッコミが常識人過ぎて笑えない。そのシュールさが売りなんだろうか。

 理解の出来ない事態に、バーナビーの思考は一瞬彼方へと飛んだ。

 まあ、そんな訳はないのですぐに戻ってきたが。

「一体どうしたっていうんですか?」

 バーナビーが尋ねなおすと、キースはポケットから取り出した紙を見ている所だった。その綺麗な折れ線しか付いていない紙に、意外と几帳面な人だなと思う。

「いや、実は、君の誕生日サプライズの時、私だけが君にプレゼントを渡していないことがどうしても悔やまれてね。今更で申し訳ないのだが、受け取ってもらえないだろうか?」

 その言葉を受けて、バーナビーは驚いた。

「プレ、ゼント……ですか?」

「ああ。今からピクニックに出発しよう。そして、そこでプレゼントを受け取ってくれ!」

 そのセリフを聞いて、バーナビーは今更ながら、キースが大きなバスケットを持ってリュックを担いでいる事に気付いた。

 視界に入っていた筈なのに、認識していなかった辺り、バーナビーも平静ではないのかもしれない。

「……あの……」

 キースの真っ直ぐすぎる視線に戸惑うバーナビーに、小さく声がかかった。見ると、いつの間にかバーナビーの後ろに移動していたイワンが、彼の服の袖掴んでいる。

 イワンは袖を引きながらさらに2歩下がった。腕を引かれてバーナビーも後ろに下がる。そのまま、その場に二人してとすんと座り込んだ。そうしてやっと、イワンが小声で話し出す。

「よくわからないのですが、スカイハイさんはサプライズをしたいようなのです。それにはどうも、ピクニックに行く必要があるらしくて、ボクも朝早くに連れ出されました」

「ピクニックでサプライズ? あの人自分がサプライズに参加出来なかったのがそんなに悲しかったんですか……。でも、どうして折紙先輩まで」

「それはボクにもよくわからないんですけど……。でもスカイハイさん、なんだか凄く一生懸命考えてやっているみたいなんですよ。せっかくのお休みの日に申し訳ないですけど、付き合ってあげてくれませんか?」

「……どうして折紙先輩がそこまで気にしてあげるんですか?」

 イワンの意外なお願いに、バーナビーは不思議そうに尋ねる。すると彼は眉を下げて酷く困った情けない顔をした。

「それは」

「……二人で秘密の話かい……?」

 答えようとしたイワンの声を遮り、二人の背後で悲しそうな声が落とされた。別に怒鳴りつけられたわけでもないのに、バーナビーとイワンの肩がびくっと小さく跳ねる。そっとお互いの視線を合わせると、バーナビーはふいに理解した。

 今振り向けば、きっとその理由がわかる。

 嫌な予感を抑え込みつつ、肩越しにゆっくりと後ろを振り向くバーナビー。

 その視線の先には、ゆるく小首を傾げて呆然とした様子で立つキースの姿。その姿と真っ直ぐな瞳からはなんともいえない哀愁が漂っている。そう、例えるならば。

 小雨の中、古びた電信柱の下、凍えながらも何かを信じた瞳で見上げてくる――。

「……捨てられた子犬か」

 バーナビーの力ない呟きに、イワンが力強く頷いた。敵うわけないでしょう、これに。そんな内心が見て取れる動作である。

「ええと、その」

 キースから視線を外せなくなってしまったバーナビーの頬に、冷や汗が一筋流れた。

 何か強要されているわけでもない。脅されているわけでもない。単純に質問されただけだ。なのに、途方もない罪悪感に思考が空回りして。

「……ピクニック、何持っていけば、いい、かなぁ……とか」

 酷く間抜けで何の感情も籠らない言葉が、バーナビーの綺麗な顔に浮かんだ下手くそな笑顔から零れた。

 

 

 何をしているんだろう。僕は。

 広がる草原を前に、赤のオープンカーから降りたバーナビーは一人ごちた。

 先に降りていたイワンは、荷物を手に指示された丘向こうを目指している。キースは荷物を抱えながら言った。

「準備があるからね。バーナビーくんはここで待機していてくれたまえ」

「待機?」

 キースの言葉に疑問を投げかけると、何を勘違いしたのか、キースがバーナビーの頭を2・3度軽く叩いた。それから笑顔を見せる。

「すぐ戻るよ。だから大丈夫! そうだ。これを被っておくといい。私とお揃いなんだ!」

 言いながら、バーナビーの頭に麦わら帽子を被せた。絵画で農夫が付けているような、紐のついたものだ。そのまま自分の麦わら帽子を被ったキースは、荷物を持ち直すと軽やかに走り出した。

「いってくる! そして、すぐ戻る!」

 その始終楽しそうな様子を見送ったバーナビーは、姿が見えなくなってからオープンカーに寄りかかり、深いため息を吐いた。

「何をしているんだ……僕は……」

 周りに人がいなくなったことにより、自嘲が音になって流れた。

 こんな所で無駄な時間を過ごしている暇があるのなら、やることは幾らでもあるのだ。両親を殺害した犯人の情報収集もここの所成果がない。ヒーローと会社の権限でアクセス可能箇所も増え、調べる事も増えた。かといってヒーロー業を疎かにする訳にもいかない為、完全オフ日の時間というものは、今のバーナビーにとって貴重なものだった。貴重なものなのに。

 軽い眩暈を覚え、条件反射で額に手を当てようとして、帽子の存在に気付いた。これもまた、バーナビーのため息の要因である。

 彼は4歳からずっと、両親殺害事件解決の為だけに生きてきた。

 必然的に利害関係を抜きにした人間関係を持った事など無かった。社会的、会社的、一般的付き合いならいくらでもこなす事が出来るが、このように損得のはっきりしないぼんやりとした関係性だと、どこに自分を置けばいいのかわからなくなるのだ。

 相手の行動が読めず真意もわからない。その上での関係性の維持を、酷く負担に感じてしまう。

 その疲れが倍になって伸し掛かり、バーナビーはそのままずるずると地面に座り込んだ。

 この程度の事もうまくこなせない自分に対する苛立ちも浮かんでくる。

 彼は、麦わら帽子の鍔を、強く掴んで引き下げた。

 その時、ざっと強い風が吹く。

 地の緑が揺れ、擦れた葉がその音と香りで存在を主張する。

 そこでようやく、バーナビーの視界に揺れる草葉が入った。いや、認識されたと言った方が正しい。彼は自分の考えに没頭して、周りの景色すら内にいれていなかったのだ。

「……みどり」

 頭に浮かんだことを、何も考えず口に出したような口調で呟く。

 そのまま視線を上げると、靴元に、白い紙がひっかかっていた。綺麗に折りたたまれたそれは、どこかで見た覚えのあるものだ。体を前に伸ばしてとる。座り込んだまま、小さなそれを開いてみた。

 そこには数行の文字列。

 『バーナビーくんのすきなもの

  ・赤(スーツもジャケットもブーツも赤い!)

       赤オープンカー? ジャパン紅葉! ダルマ! 素晴らしい!

  ・ポイント(タイガーくんの助言! プレゼントには難しい)

  ・心や……                            』

 ぐしゃっ!

 数行も読まないうちに、バーナビーはそれを握りつぶして立ち上がった。

 彼の心の中は大混乱である。

 は? なんだこれ? なんなんだこれ? ネタ? コンビじゃなくてトリオデビュー目指してた?

「――というかっ」

 バーナビーは、完全にあられもない方向に飛んだ思考を、自身の声で断ち切るように叫んだ。

 サプライズに参加出来なかったことが悔しかった為に今回の事を企画したんじゃなかったのか?

 そう思い込んでいた彼は、その顔に熱が集まるのを止められないまま、握りしめた紙をさらに強く握る。

「……ただ、純粋に……祝ってくれるのか……」

 空いた手で口元を覆ったバーナビーは、ただただ、どう反応して良いのかわからない様だ。

「バーナビーくん!」

 そこに、急にキースの声が響いた。

 驚いたバーナビーは、慌ててくしゃくしゃになった紙をポケットに詰め込んで平静を装う。

 頭上から風に包まれて降りてきたキースは、不思議そうに小首をかしげる。

「バーナビーくん、どうしたんだい? 顔が赤い。まさか、熱があるのかい!?」

「いえ違います大丈夫です問題ありませんそれより準備とやらは整ったんでしょうかとても楽しみです!!」

 一息で言い切ったバーナビーに、キースは目を瞬かせたが、すぐにとてもうれしそうな笑顔を見せた。

「本当かい? 嬉しいな。そして嬉しい! きっとバーナビーくんも喜んでくれるよ」

「……ハイ」

 キースは、鍔で目元を隠しながら短い返事をしたバーナビーの腕を取ると、そのまま空に浮いた。

「このまま一息に、イワンくんの所まで飛んで行こう!」

 言葉が聞こえた次の瞬間、バーナビーの視点がぐんと高くなり、視界いっぱいに空が広がる。

 ――高い。

 そう認識する直前、視界が変わり、降下が始まった。

「ぅ、……わ」

 自分の認識の範囲外にある急上昇と急降下に、バーナビーの口から思わずといった声が漏れる。普段のヒーロー業で慣れているだろうと思われがちだが、自分の認識の上で行うものとそうでないものでは衝撃度が違うのだ。そうして地面に降り立ったとき、片膝がゆるりと折れそうになったが、それは意識してカバーする。

 いきなり自分を連れて飛んだキースに、文句の一つでも言ってやろうと顔を上げたバーナビーの視界に、ふわりと揺れる赤が飛び込んできた。

「え」

 ふわふわ。くるくる。

 緑と青の世界の中で、季節外れの赤い木の葉が、地に落ちることなく文字通り風に舞っている。

 その光景はとても神秘的で美しいものだった。

 ゆうらりと踊る赤い木の葉の中に、お揃いの麦わら帽子を被ったイワンが立っているのが見える。

 バーナビーと目が合うと、小さく微笑んで、その手を伸ばして紅葉を一枚掴んだ。バーナビーの名を呼んで近づいてくる。

 イワンが彼の目の前に来ると、キースもイワンの隣にならんだ。二人とも笑顔だ。

「Happy Birthday! 私たちからのプレゼントを、受け取ってくれたまえ!」

 キースがそう言って、迎え入れる様に両手を広げる。

 起こっている事への理解が及ばず、バーナビーは先の予測が全くできなくなっていた。

 ただ、風に舞う紅葉の中に立つ二人が、何故かとても暖かいものに見えて、それが同時に不安を招く。

 急き立てられるように何か言おうとしたバーナビーを遮り、イワンが紅葉を差し出した。

 一呼吸置いてイワンとキースが同時に口を開く。

「ボクと、スカイハイさんと、友達になりませんか」

「私とイワンくんと、友だちになろう!」

 青葉の香る草原。赤く色づく葉が舞う不思議な空間。そこで告げられたその言葉に、バーナビーはただ茫然とするしかなかった。

 この二十年で培われた、表情を取り繕う能力は全部すっ飛んでしまい、そこにあるのは酷く無防備な素の表情だ。

 プレゼントを受け取る?

 プレゼント?

 葉っぱが?

 え? 友達が?

 この人たちが?

 あれ、ともだちって、なんだっけ。

 紅葉のことか?

「――――は、……い?」

 インプットした単語だけで思考が回り、かすれた声が出る。それはどちらかというと疑問のようなものだったが、バーナビーのその言葉を聞いたとたんに、キースの表情が明るくなった。顔の周りに花が見える。

 とうとう幻覚が見えたと、ほんの少し残されたバーナビーの冷静な一部分は思った。

「ッぅわ!」

「ありがとう! そしてありがとう!」

 キースはその言葉と共に、物凄い勢いでバーナビーを抱きしめた。広い胸板に溺れるバーナビーを、止め損なったイワンが同情的な視線で見ている。

「私はバーナビーくんと友だちになれて嬉しい! とても良かった!」

 言いながら、バーナビーの背中をバンバンと叩くキース。

 体格のいいキースにもみくちゃにされる細身のバーナビーに、流石に不味いと思ったイワンが声を掛ける。

「スカイハイさん。バーナビーさんが苦しそうですよ。そろそろ放してあげましょう?」

「ああ、大丈夫かい? そしてすまない……。つい、嬉しくてね!」

 キースの抱擁から解放されたバーナビーは、その場で座り込み、空気を求めて咳込んだ。

 不幸なことに、彼にはあの流れのどこで友達になったのか、まだわかっていない。

「バーナビーさん、大丈夫ですか? 救出が遅れてすみません」

 イワンがバーナビーの背をさすりながら小声で謝罪する。だが、今のバーナビーにはそんなことはどうでもよかった。

「折紙先輩。っあの。友達って、どこで……そうなったんですか?」

 一番の問題を尋ねると、イワンは困った顔をしたがきちんと答えてくれる。

「バーナビーさん、さっき、言いましたよね。『はい』って……」

「……――っ!!」

 イワンの言葉に、バーナビーは再度固まった。その顔には『そんな馬鹿な』と書かれている。こんなにも素直な表情のバーナビーを見るのは初めてで、意外と楽しい人だなと思ったイワンは、その手を握って笑った。

「宜しくお願いします。友達のバーナビーさん!」

 イワンは握った手を引いてバーナビーを立ち上がらせる。

 紅葉を片付けていたキースが、それを見てうんうんと頷き嬉しそうに言った。

「イワンくん、バーナビーくん。友だちとして、私の事はキースと呼んでくれたまえ! 私も二人を名前で呼ぼう。それがいい!」

「え? あ、はい。頑張ります」

「いや、流石にせんぱ……なんでもありません。わかりました」

 キースの提案に抵抗を見せたバーナビーは、もちろん例の子犬の表情で意見を押し通された。それが分かっていて抵抗を示さなかったイワンはもう学習済みなのだろう。もはやこのキースの表情は、対ヒーロー兵器として、かなりの威力を持つのではないかと想定される。

「よぅし! では友だちのあかしとして、一緒にサンドイッチを食べよう! 私がつくってきたんだよ!」

 元気に言って、キースが一行を先導した。その言葉にイワンが反応する。

「キースさんが? 料理もできるんですね」

「うん。好きなものを沢山はさんでみたよ! パンに好きなものをはさむと、サンドイッチだ!」

「……うーん。間違ってはいませんけど」

「嫌な予感しかしない……」

 キースの言葉に、苦笑いを隠せないイワンの呟きと、すぐ先に見えたやたらとカラフルでファンシーな兎と虎の描かれたレジャーシートを見たバーナビーの言葉が、草原の風に流れて消えた。

 

 

 

おまけ

 

「それ、なんですか」

「紅葉だよ。『友だちプレゼント計画★』に使ったものだ! 綺麗だったろう?」

「(突っ込まない。突っ込むものか)いえ、紅葉というよりその入れ物が」

「これですか? 元は透明なダルマなんです。でも、こうやって紅葉をつめると、赤いダルマに見えませんか?」

「……(ダルマ……紅葉……)」

「キースさんに、ジャパンの事なら詳しいだろうって相談されて、ボクが探したんです。紅葉はともかく、透明なダルマというのがちょっと大変でした」

「あの時はすまなかったね。そしてありがとう! お蔭で素晴らしい時間になった」

「……(……ダルマ紅葉赤いオープンカーってe)」

「そういうわけで、これはバーナビーくんへのプレゼントだ! 今日の日の思い出を、バーナビーくんの部屋にも連れ帰ってくれたまえ!」

「って! 貴方たち事前にグルになってたんですか!?」

「あれ、今そこなんですか?」

「バーナビーくんが喜んでくれて嬉しいよ! とても嬉しい!」

 

2011/07/09

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