昔からつるんでいるギルサンダーはとにかくモテた。本人に直接渡せないからと手紙やプレゼントを託されるのはよくあることで、俺はこの時もそうであると思っていたのだ。
「わかった、ギルに渡せばいいんだな」
「えっ?」
片手を差し出してみせれば彼女は驚いた顔をする。それからぶんぶんと首を振って、消え入りそうな声で言った。
「違います。これは、貴方に、その」
「俺からあいつに渡せばいいんだろ?」
本人でもないのにそこまで顔を真っ赤にする必要があるのだろうか? そんなことを思っていると彼女は俺の胸元に手に持っていた封筒を押し付けた。
「これは、貴方へ!」
反射的に受け取ると、彼女はすぐに走り去ってしまう。俺はそれを呆然としながら見送った。
どたん、ばたん、どかどか。そんな音を立てて自室に入った俺は、室内を見渡して誰もいないことを確認し、懐に入れた封筒を取り出す。宛名は書かれていないが、これは顔を真っ赤にした女性から俺へ直接渡されたものだ。まさか。もしや。これはラブレターというやつではなかろうか。
顔が熱くなる。ギルを見ていて、誰とも知れぬ人間にいつの間にか好かれるなんて大変だよなと思っていたが、まさか自分にもそんな日が訪れるとは夢にも思わなかった。
「うお~! マジか!?」
封筒を両手で持ち掲げる。何の変哲も無い封筒だ。けれどなんだが視界に入れているのが気恥ずかしくなるのは何故だろう。これがラブレター効果であろうか。
「いや、待て! まだそうと決まった訳じゃねえだろ」
内心に声を上げてツッコミを入れると、ごくりと唾を飲み込み封を開ける。中には折り畳まれた便箋。それを見て、一行目に書かれた文を読む。
『見知らぬ貴方へ』と書かれている。何故か恐る恐る、黙々と読み進めた。
「……」
最後の一行まで読んで、詰めていた息を吐く。
ラブレターと思われたその手紙は、開けてみれば感謝の手紙だったのだ。
読んでいて思い出した事だが、半月前に男どもに絡まれていた女性を助けた。酷く怯えていたので家まで送り届けたのを覚えている。
ふっと肩の力が抜けた。その場に座り込む。浮ついていた気持ちはすっかり落ち着いた。もう一度便箋を見る。ラブレターもとい感謝の手紙の文末には、こう記されていた。
『とてもかっこ良かったです。本当にありがとう。』
それを見て、笑みが零れる。
彼女はこのリオネスの城下町で、感謝の手紙を渡す為に、何処に居るとも知れぬ俺を探していたのだろう。それを考えると、なんだか嬉しくなったのだ。
ラブレターではなかった。しかし、これはとても嬉しい手紙だ。
俺は便箋を封筒に戻し、大事な手紙を詰めている箱に、大切に仕舞った。