夢を見ていた。
あの剣を岩から抜いた日。いつもと変わらぬ朝。雲一つない晴天。行われる馬上試合。遠く響く喧騒。笑む美しい女性。その笑顔が翳ったのはほんの一瞬の幻。剣に触れ、柄を握りしめる。
「その選択に、幸いがあらんことを」
柔らかな声を聞きながら、誰にも抜けなかった剣を抜いた日のこと。
目を覚ます。
いつもの時間。いつもの場所。部屋には誰もいない。私はゆっくりと起き上がってベッドから出た。夜着を脱いで服を着る。当たり前のように着替えを手伝おうとする侍女に驚いて、着替えくらい自分で出来ますと言った日のことを思い出す。思わず笑みがこぼれる。ほんの一年と少し前のことなのに、遥か昔のような気もした。
コンコンと扉がノックされる。すると水桶を持った侍女が現れた。「ありがとうございます」と礼を言って顔を洗う。その後、食事を取り今日の予定を聞く。今や変わらぬ日常となった生活は、幼い頃は想像だにしなかった日々だ。
執務室へ向かう前に、物見の塔に寄った。
見張りの兵に挨拶をし、キャメロットの城下町を一望する。城下は現在復興作業の真っ最中だ。魔神族の襲撃で、この国は深い被害を受けた。私の力が及ばなかった所為で、一度キャメロットを魔神族の手に落としてしまったのだ。力ない王だというのに、民は再び私を受け入れてくれた。それに報いる為にも、後悔に立ち止まっている暇はない。
「うん」
頷いて、拳で胸元を軽く叩く。
私は過去、リオネス国王の千里眼により未来を示された。しかし、その上で王となることを選んだのは私だ。この国が、民が必要としてくれる限り、私はそれに答えるだろう。王を選定するとされる剣を抜く時、未来を捧げると決めたのだから。
『その選択に、幸いがあらんことを』
あの時の言葉が、再び脳裏に響く。
今にして思えば、彼女が口にした言葉は、この国へのものではなく私の幸せを願うものだったのだろう。だって、彼女は優しい人だから。
自然と笑みが浮かんだ。そうやって私を想ってくれる人がいるだけで、十分に幸せである。
だから、大丈夫。
もう一度城下を見渡して、物見の塔を後にする。
未来へ進もう。やるべきことは、山のようにある。