彼の姿を初めて見たのは、父に連れられて騎士達の修練場へ行った時のことだった。小さな体で、体格のいい大人達を圧倒していくその姿に見惚れ、強く憧れたのを覚えている。その場で父から紹介され、彼が聖騎士であること、<七つの大罪>の団長であることを知った。メリオダスという名前は、父の口からよく出ていたので知っていた。
「初めまして、メリオダスさん。ギルサンダーです」
父の服の裾を掴みながらも、後ろに隠れることなく挨拶をする。すると、彼は笑って「よろしくな」と手を差し出してくれた。
それから、メリオダスは時々剣の稽古を付けてくれるようになった。
一対一で剣を交えながら、剣筋の癖を指摘してくれたり、実践的な戦術について教えてくれたりする。それは、ギルサンダーにとって目新しく楽しいことだった。
「ありがとう、ございました!」
ぜえぜえと、必死に息を整えながら、息一つ乱れぬ彼に頭を下げる。
「おお。もう時間か。大丈夫か?」
「は、はい」
なんとか肯定の返事をしたものの、体はふらふらとしていた。そんな強がりは、すぐに見抜かれてしまう。彼はギルサンダーをその場に座らせて、近くに置いてある水筒を持って来てくれる。手渡されて、促されるままに喉を潤すと一息つけた。
「次は、王女様と勉強の時間だったか?」
その問いにこくりと頷き、もう一口水を飲む。
「聖騎士長の息子は忙しいな」
「そんなことないです。メリオダスさんの方がお仕事もあって忙しいのに、僕なんかの稽古の時間も取ってくれて……」
「僕なんか、なんて言うんじゃねえよ。こっちは楽しんでやってるんだからな」
そう言ったメリオダスの笑顔には、遠慮や気遣いは感じられなかった。それが嬉しくて、「ありがとうございます」と言うと、ぽんぽんと頭を優しく叩かれる。
「ギル坊は筋がいい。焦らずやっていけば、強くなれるさ」
何気無い言葉に、ほんの少し俯く。
生まれた時から、ギルサンダーの周りには立派な騎士が沢山居た。その筆頭が父である。目の前の彼も、とても強くて立派な騎士だった。この国の王女であるマーガレットを守るには、もっともっと強くならなければ。そうやって焦る自分を見抜かれているようだった。
「でも僕は、早くマーガレットを守れるようになりたい……」
正直な気持ちを言葉にすると、額を人差し指で弾かれる。
「いたっ!」
「焦るなって言ったろ」
メリオダスが腰に手を当てて続けた。
「ギル坊は守る力を手に入れたいんだろ? なら、きちんと自分の力を把握して、経験を積み重ねて強くならなくちゃ駄目だ。制御出来ない力は、人を傷付けるだけだぞ」
「……はい」
「よし、いい子だ」
素直な返事を聞いた彼は、笑顔で手を差し伸べてくれる。その手を取って立ち上がった。
「じゃ、休憩終わり。勉強も頑張ってこいよ」
「はい!」
そう言って手を振る彼に見送られ、ギルサンダーは駆けた。