暑中見舞い

 

 花火でもするか。そう言ったのはメリオダスだった。片手にコンビニのビニール袋を提げた彼は、玄関で出迎えたアーサーの手を引いて外へ連れ出す。近くの公園までは徒歩五分。日が落ちて過ごしやすくなったとはいえ、記録的な猛暑日のせいか茹だるような暑さの中を二人は歩いた。

「急に花火なんて、どうしたんです?」

 そう尋ねると、気分だよ、と返ってきた。人気のない公園にたどり着くと、備え付けの水場で消火用の水をバケツに溜める。

「ここ、花火しても大丈夫でしたっけ」

「書いてない。ダメかもな」

「いいんですか?」

「線香花火くらいなら、いいんじゃねえ?」

 水の入ったバケツを置けば準備は完了だ。メリオダスはビニール袋から花火のパックを取り出すと、その封をといた。中から、鮮やかな赤が印象的な線香花火を取り出す。数本を一つに纏めている真ん中の金紙を丁寧に破ると、その中の一本をアーサーに差し出した。

 受け取ってその場に腰を下ろすと、その隣にメリオダスも座る。彼はライターを取り出して、アーサーの持つ花火に火をつけた。ジジッと引火音がして橙の炎がくるりと丸い形を作る。ジリジリと小さな音を立てていたそれは、突然に火花を散らし始めた。ぱっと明るくなった手元に目を細める。

「綺麗だよな。オレはこいつが一番好きだ」

 メリオダスの声を聞きながら、散る火花を眺めていると、それは次第に力を弱め、柳のような線を描き始める。そうして終わりはあっさりと来た。ぽとり、と玉が落ちたのだ。それを妙に寂しく感じていると、新たな線香花火が差し出される。

「ほら、次」

「あ、はい」

受け取って、火をつける。するとメリオダスが自分の花火にも火をつけて、玉が出来上がる直前に寄せてきた。

「動くなよ」

 合わさった二本の線香花火は、先ほどより大きな玉を形作る。いまにも落ちてしまいそうなそれを、はらはらとした気持ちで眺めた。大きな音を立てて火花が散る。その度に中心の玉が揺れていまにも落ちそうだ。火花は手元に届かんばかりで、とても美しい。

 ふいに、名を呼ばれた。

 メリオダスの方に顔を向ける。すると、すぐ近くに新緑の瞳が見えた。丸い大きな瞳がぼんやりと滲むほど近くに。

 ジッと音がして、玉が落ちる。

 ほんの一瞬、重なった唇はすぐに離れた。

「悪りぃ。オレが動いちまったな」

 何事もなかったかのようにメリオダスが言う。そして手に持った線香花火の抜け殻をバケツの水につけた。

「え、あの。いま」

 戸惑いの声は、差し出された線香花火に封じられる。

「ほら、まだあるぜ」

 そう言って笑った彼は、また、線香花火に火を灯した。 

 

2015/08/05

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