「明日はどこに行こうか」なんて、当たり前に明日の話をする彼の能天気さが苦手だった。まるで甘ったるい菓子のように、いつまでも舌に残るから。
それは、酷い雨の日で、重く世界を覆う雲のせいか、鈍い頭痛が付きまとう日だった。アジトの自室で、ベッドに腰掛け窓の外を眺めていたバラムの元に、ソロモンが顔を出す。
「バラム。明日は近くの町で祭りがあるんだってさ」
「あっそ」
「興味あるよな」
「ねぇよ」
にべもない言葉がむしろ全く聞こえなかったかのように、彼は続ける。
「明日はきっと晴れるからさ。そしたら、行こう」
「お前、俺の話聞いてた?」
「興味ないんだろ? 聞いてるよ。でも俺はお前と行きたい」
吃驚するくらい自分勝手な発言に、バラムは辟易とする。その感情を、素直に顔にも出した。が、そこまでされても引く気は無いらしい。ソロモンの中で、明日一緒に祭りに行くことは決定事項のようだ。
「何様だよ」
「俺は俺だけど」
「はいはい。この空模様見えてるか? 明日も雨で、祭りは中止だろうよ」
去れと言わんばかりに手を振ると、なぜか自信満々に彼は言う。
「晴れたら行くんだな」
「雨だって言ってるだろ」
「じゃあ、明日の朝迎えに来るから」
嬉しそうにそれだけ言って、彼は部屋を出て行く。パタンと閉まった扉を見やり、バラムは溜息を吐いた。ずくずくとした頭の痛みが酷くなったように感じる。経験的にわかる。明日も間違いなく雨だ。一方的に取り付けられた約束は反故になるだろう。興味のない祭りに連れ出されず、バラムとしては願ったり叶ったりである。
だが、あれだけ嬉しそうな顔を見せられた後だと。
その事実に、ほんの少しイラついてしまう自分もいることに、バラムは気づいてしまう。
「あ〜、ったく。なんだってんだ」
ゴロンとベッドに寝転がると、もう一度長い溜息を吐いて、静かに目を閉じた。
明日、晴れればいいのに、なんて。
ほんの少しでも考えてしまった自分の甘さに吐き気を覚えた。