星を見に行く義善

「星を見たい」‬

‪ そんな冨岡さんの言葉に、「そのまま上を見れば見えますよ」だなんて野暮な返しをする程、空気が読めないわけではない。何で俺なんかを誘ったのか分からないけれど、冨岡さんから聞こえる音は穏やかなものだったし、たまには良いかななんて思って、二人で町外れの丘へ向かった。‬

 空には細い三日月。先を行く冨岡さんの持つ提灯のぼんやりした明かりがゆらゆら揺れる。それを夢を見ているような感覚で眺めているうちに、丘のてっぺんに着いた。冨岡さんがその場に座ったので、少し離れて俺も座る。‬

 見上げると、満天の星。そういえば、星空なんて改めて眺めようだなんて思ったことがなかった。夜空にきらめく星は、こんなにも美しかったのか。‬

 もっと星の光を浴びたくなって、そのまま寝転んだ。するともう、視界の全てが星空で埋まる。とても、綺麗だ。‬

‪「綺麗だな」‬

 冨岡さんの声がして、俺はそちらを見る。すると彼は何故か俺を見ていた。‬

‪ 「そうですね」と返せば、彼は頷いて、静かな笑みを浮かべる。‬

 え、いま笑った? めちゃくちゃ珍しいもの見たんじゃない? でも夜の闇であんまりはっきりしなかったから見間違い?

 冨岡さんから聞こえる音は相変わらず穏やかだ。じんわりと心が温かくなるような、優しい音。‬

‪「冨岡さん。……星が、綺麗ですね」‬

 だから、口にするつもりなんかなかった言葉が、俺の口から漏れた。言った後で、やってしまったと思うも後の祭り。まあ冨岡さんこういうのは疎そうだけど。‬

‪「ああ、綺麗だ」‬

 なのに、そんな返事がくるんだから。‬

 熱を持った頬を持て余して、俺は両手で頬を覆い、星空に視線を戻した。‬

 あーもう。夏は暑いなぁ、なんて思いながら。‬

 

2019/09/08

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