義勇さんが俺のことを大切にしてくれているのは分かってる。
表情で、仕草で、音で。
言葉少ない彼は、その他のことで十分すぎるくらい俺を愛しんでくれた。ちょっと自信が無い俺でも、なんだかもう恥ずかしくなるくらいだ。
でも、大切にしすぎだと思う。
親しくなってから五度目の水柱邸へのお泊まり。そわそわした一度目、意識しすぎなのかなと思った二度目、考えるのが面倒になって自然体で臨んだ三度目、普通に楽しく過ごせた四度目を経ての、五度目だ。俺もそろそろ、自分が本当にそういう魅力を欠いている存在なのかと疑ってかかりたくなる。
端から疑わないのは、俺と一緒に居るときに、たまに義勇さんからする欲の音を知っているからだ。多分、彼はあえて我慢している。どうしてなのか、俺にはわからないんだけど。
「でも、流石に不安になるんだよなぁ」
先に湯をもらって、義勇さんが湯から上がってくるのを待つ。綺麗に敷かれた二組の布団の一方の上に胡座を組んで座り、ひとりごちた。
「俺、もしかしてめちゃくちゃそういったことに疎そうに見られてる? いや悲しいことに事実なんですけどね!!」
誰に向かうでもなく叫んで、我に返ってアホらしくなった。
「別に良いんだけど」
ぽつりと呟いて、そのままごろっと横になる。浴衣の裾が乱れたが、あまり気にせず目を瞑った。視界が閉ざされると、だたでさえ良い耳が、さらに精度を増した。
静かな足音が近付いてくる。義勇さんが戻ってくるようだ。目を瞑ったまま。だんだん大きく聞こえてくる彼の音の耳を澄ました。そして、襖の開く音。
「……眠ったのか。豪快だな」
多分寝方のことだろう。うるせいやい、と思いながらも目は開けなかった。すると、義勇さんが側までやってきて、俺の側で衣擦れの音。それから、頬に他人の熱が触れた。
「善逸」
愛おしいという想いを音にし、彼が名を呼ぶ。その甘やかな音に、酒も飲んでいないのに酔ってしまいそうだと思った。
「……ぜんいつ」
義勇さんが、俺の名を呼ぶ。愛おしさと、嬉しさと、僅かな欲を滲ませて。
そこで、ぷつりと俺は耐えられなくなった。
ぱちっと目を開いて、両手で義勇さんの浴衣の胸元を掴んで引き寄せる。
「なんで我慢してるのか知らないですけど」
目の前に迫った、彼の喉元に噛みつくように口付けた。薄い皮膚を柔く食んで、吸う。急所に触れられているというのに、驚きはせど警戒心の欠片もない義勇さん。そんな彼に、信頼されているという嬉しさを感じながら唇を離すと、白い首筋に赤い痕が残る。自分でやっておきながら、恥ずかしくて顔が熱くなった。
義勇さんの目を見れないまま、続ける。
「俺だって、欲情くらいあるんですからね」
喉への口付けが、欲求を表してることを、彼は知っていたのかどうか。
「善逸」
熱い、音が、俺の名を成して。
口にしようとした言葉は、義勇さんの唇に飲み込まれた。