こいしやさみし

「さっむ! え、今日寒くない? 五月だよ?」
 義勇がソファに座って本を読んでいる所に騒がしく帰宅した善逸は、ローテーブルの上にコンビニ袋を置いた。それから、義勇のすぐ隣に座る。
「異常気象だよね、ホント!」
 そう言いながら義勇に寄りかかり、手元を覗き込んだ。
「何読んでるの?」
「銀河鉄道の夜だ」
「ちょっと寂しい話だよね」
 善逸がそう言うと、彼は本にしおりを挟んで立ち上がった。それから、その本を善逸に渡してその場を離れてしまう。
「……甘えたいの、露骨だったかな」
 義勇の姿が見えなくなってから、ソファに残された善逸が呟く。この間まで暑いくらいだったのに、いきなり寒くなったせいで、なんとなく人肌恋しい気分になったのだ。
「いや、でも本を置いてったからトイレに行っただけかも」
 落ち込んでしまいそうになって、慌てて考え直す。渡された本を膝の上に置いて、義勇が愛用している革のカバーをなぞった。これは善逸が誕生日にプレゼントしたのもので、こうやって日常に使ってくれているのがとても嬉しい。
「善逸」
「え? わ」
 いつの間にか戻ってきた義勇が、善逸にふわりと何かを掛けた。それは夏用の掛け布団で、片側を持った義勇はそのまま善逸の隣に詰めて座って、一緒に布団にくるまってしまう。
 すぐそばの義勇の顔を見ると、視線に気付いた彼は、優しく目を細める。
「これで、寒くないだろう」
「ーーはぁ? ずっる!!」
 あまりのことに何故か瞬間的に切れてしまった善逸は、義勇の腕に手を絡める。状況が理解できていない彼の膝に本を返した。
「罰として義勇さんがこの本読み終わるまで離しませんからね!」
 頬を赤くしてそう宣言した善逸は、自分の言ったことにさらに顔を赤くして俯いてしまう。
 義勇はそんな善逸の様子に口元を緩めて、了承を返すのだった。

 

2020/05/22

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