彼の嗚咽を聞いたのは偶然だ。
背中を向けていた為、最初は泣いていると思わなかった。彼のことは炭治郎の手紙でよく知っていたし、実際に顔合わせした時も随分騒がしかったと覚えている。人気の少ない場所で泣くような人物には思えなかった。だが、それは思い込みであったらしい。そこで、声をかけようか迷った自分に驚いた。わざわざ人気のない場所で泣いている人間に声をかけるなど、考えもしなかったからだ。中途半端に持ち上げられた手を見て、軽く頭を振る。そうしてそのまま声をかけずに背を向けた。あの丸まった背中を撫で、慰めを与えることができる人間を、とても羨ましく思って。
ーーそれが恋情の発露だと、この時の俺は全く気づかなかった。