「朝はあんなに晴れてたのになぁ」
昼下がりからしとしとと降り出した雨は、今や本降りとなり地面に水溜りを作っていた。今朝は寝坊して天気予報も見ずに出掛けたために、傘など持ってこなかった善逸は、昇降口でざあざあと五月蝿い音を立てて振り続ける雨をただ眺めるしかない。やはりコンビニまで走って傘を買うしかないのだろうか。そう考えていると、校門の方から見慣れた傘をさした人影が近付いてきた。
「……義勇さん?」
一風変わった幾何学模様の傘は、前にオーダーで頼んだものだと聞いたことがある。人影が近寄ってきて、ようやく見えた傘の下の顔は、やはり善逸が口にした人のものだった。
「迎えにきた」
そう言った義勇の手には、善逸の分の傘はない。
「えっと……迎えにきた割には傘持ってなくないですか?」
「ここにある」
「俺の分は?」
尋ねると、義勇は傘を少し斜めにして「一緒に入ればいい」とどこか自慢げに言った。その様子に、もしやと思う。
「もしかして……。相合い傘、したかったの?」
「ああ」
肯定の言葉に、善逸は無意識に息を吐いた。それを聞いた義勇は、ほんの少し眉を寄せる。
「……ダメだったか?」
「いや、うん、ダメとは言ってないけど」
「ならいいだろう」
一転して嬉しそうに言う義勇に、善逸は苦笑する。
「……仕方ないなぁ」
そう言って義勇の傘の下に入った善逸は、彼の腕に自分の腕を絡める。ふっと上を見上げると、珍しく義勇がほんのり頬を赤くしていた。その様子に、つられて善逸も顔を赤らめる。
「お、男二人で傘一つだと、引っ付かないと半身濡れ鼠になるんだから、仕方ないでしょ!」
「……す、まない」
「そこで謝んないで! 恥ずかしいから!」
「……」
「黙るのもダメ!」
「どうすればいい」
お互いに顔を赤くして言い合いながらも、ふりしきる雨の中を、二人は一つの傘のもと歩き始めたのだった。