「欲しいもの、なんて具体的に考えたことがなかったなぁ」
街の大通りを歩きながら、シエテは顎に手を当ててひとりごちた。それは、ウーノに頼まれた仕事を終えた後に、彼から「今回のお礼に何か欲しいものはあるかい?」と尋ねられたのが発端だ。即答もできず、何故か不要とも言えずに「考えておくよ」と答えてしまった為に、シエテはこうやって悩んでいる。
「うーん。欲しいもの、ね」
そもそも欲しいものは自分で手に入れてしまうシエテである。わざわざ他人から与えてもらうまでもない。なら何故不要と言えなかったのか。
視界の端で何かが光り、シエテはそちらを見る。宝石店のショーウィンドウに展示されるはエメラルドのネックレス。それは、先程まで共に居た彼の瞳を連想させて。
それならば、欲しいとーー。
「……うっそ、ホントに?」
シエテはその場で頭を抱えて座り込んだ。まさか自分がウーノに恋情のようなものを抱いていたなんて、今の今まで考えもしなかったからだ。
「……何をしているんだい? シエテ」
半ば放心していたシエテに、聞き慣れた声が落とされる。顔を上げると、そこには不思議そうにシエテを見るウーノの姿。その瞳がシエテを映す。その光景が、この上なく魅力的で。
「うーん。ウーノ、とりあえずカフェでも行こうか」
この気持ちに降参することにして、シエテはウーノをデートに誘うことにしたのだった。