「貴方達はゆっくりしていくといいわ」
そう言って部屋を出て行ったレイを見送ってから、シエテはふうっと息を吐いた。例え内心を見透かされていたとて、真っ直ぐに立つことができるという自負があるとはいえ、彼女の目前に在るとほんの少しだけ肩に力が入ってしまうことは否めない。
そんなシエテを見て、ティーカップを手にしたウーノが悪戯っぽく笑う。
「君も、レイの前では緊張するのかな」
その楽しそうな声に、彼女が出て行った途端に、明らかに気を抜いてしまった自分を自覚してしまった。
「ウーノは褒めてくれるのに、甘やかしてはくれないんだから……」
そう言って泣き真似をするシエテ。
「おや、心外だね。甘えてこないのは君だろう?」
ティーカップをソーサーの上に戻して、ウーノが静かに微笑む。そのどこまでも正しい言葉に、肩を竦めて、本当に敵わないなあと思う。
「参考までに聞きたいんだけど、甘えたいって言ったら、何をしてくれるのかな?」
ちょっとした反撃のつもりで問えば、彼は「そうだね」と考えるように己の髭を指先で弄る。それから、ちょいちょいと手招きをした。促されて立ち上がり、ウーノの座る椅子の目前までいくと「膝をついてくれるかい」と言われた。その声に大人しく従う。すると、小さな手がシエテの頭の後ろに回り、引かれた。そのまま、ぽすんと彼の胸元におさまる。
「……いい子だ、シエテ」
すぐそばで聞こえる優しい声と共に、後ろ頭をあやすように撫でられた。その温かな手が、心に熱を灯すと同時、ほんの僅かに怯えが走る。己が、酷く弱い存在になってしまったようで。
「ウーノ」
名を呼ぶ声は、僅かに震えていたかもしれない。
「なんだい?」
だが、彼は全く気にした様子もなく、シエテの頭を抱きしめながら穏やかに訪ねてくる。だから、それに甘えて、冗談めかして呟いた。
「流石に、ちょっと恥ずかしいかも〜」
「おっと、それはすまなかった」
ウーノはすぐにシエテを解放する。それから、立ち上がろうとしたシエテの瞳を見つめて、優しく目を細める。
「次は、もう少し君の年齢も考慮するよ。シエテ」
穏やかな声音に、素直にありがとうと言うこともできず、シエテはへらりと笑うことで取り繕ったのだった。